【土地活用】賃貸マンション等の建て替えのために必要なこと― 定期借家への切り替え・賃料減少・立退き・仮移転の整理 ―
2025.12.02 UP
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■1.老朽化した賃貸マンションの建て替えに必要な視点
所有している賃貸マンションが老朽化してくると、設備更新の頻度が増え、外壁・防水・給排水などの大規模修繕費用も年々高額になっていきます。
これらの維持コストを長期的に負担し続けるより、一定のタイミングで「建て替え」を検討することは土地活用としても非常に合理的です。
しかし、建て替えは単純に「古くなったから新しくする」という発想では進みません。
実際には、
・契約関係の整理
・家賃収入の減少への備え
・入居者やテナントへの立退き交渉
・仮移転や工事中の運営体制の構築
といった、建物以外の多くの課題を丁寧にクリアしていく必要があります。
特に、賃貸マンションの場合は入居者が複数いるため、一部の契約が整理できないだけで建て替え全体が止まることもあります。
建て替えの成功には、これらのポイントを早い段階から把握しておくことが欠かせません。

■2.契約関係の整理(定期借地・普通借家・定期借家など)
建て替え計画において、最初に直面する大きな課題が「契約関係の整理」です。
土地や入居者との契約形態によって、建て替えの進め方・必要な手続き・全体スケジュール・費用負担が大きく変わるため、最初に最も時間をかけて確認すべき項目です。
(1)土地契約の確認
土地が定期借地の場合、契約期間内の建て替えは原則として認められないケースもあります。
普通借地の場合は更新・減額請求などの制限を踏まえた調整が必要となる場合があります。
(2)入居者との賃貸契約の確認
特に重要なのが賃貸借契約です。
・普通借家契約
・定期借家契約
このどちらの契約状態にあるかによって、建て替えに必要な手続きが大きく異なります。
(3)普通借家契約の場合
解除には法律上の「正当事由」が必要となります。建て替えは正当事由の一つですが、
・入居者の生活状況
・代替住居の有無
・補償内容
などを総合的に考慮し、丁寧に説明・説得する必要があります。
(4)定期借家契約の場合
契約期間満了で確実に退去してもらえるため、建て替えがスムーズです。
そのため、老朽化が進み建て替えを将来的に視野に入れる場合は、更新時に定期借家へ切り替えることが非常に有効な手段となります。
(5)建て替え合意書の作成
建て替えを行う場合、入居者と合意書を締結するケースも多く、
・退去時期
・補償内容
・仮移転先
・再入居の可否などを明確にしておくことがトラブル防止につながります。
契約関係は建て替えの「最重要項目」であり、ここが整理できなければ建て替えは前に進みません。早い段階で専門家と協議し、進め方を明確にしておくことが必要です。
■3.建て替え期間中の賃料・収益への影響
建て替えを検討する際、多くのオーナーが最も不安を感じるポイントが「建て替え期間中の収益への影響」です。建物がない期間は収入が止まり、一方で固定費は発生するため、事前の資金計画が極めて重要となります。
(1)家賃収入がゼロになる期間が発生する
建て替え工事期間中は入居者が全員退去するため、一定期間は賃料収入が完全に途絶えます。
一般的には、
・解体期間
・新築工事期間
合計すると1〜2年程度の「完全な空室期間」が発生するケースが多く見られます。
(2)収入がゼロでも固定費は発生し続ける
賃料収入が途絶える一方で、以下のような固定費は継続して発生します。
・固定資産税
・都市計画税
・借入金の返済(該当する場合のみ)
特に借入金が残っている場合、空室期間中も返済が続くため、キャッシュフローの悪化を招きやすくなります。こうした「収入ゼロ × 支出は継続」という状況を適切に管理するためには、事前の綿密な資金計画が欠かせません。
(3)金融機関との事前調整が非常に重要
建て替えには多額の資金が必要になります。主な費用には次のものが含まれます。
・建築費
・既存建物の解体費
・外構・給排水・電気などのインフラ整備
これらを含め、金融機関とはできる限り早い段階で調整を始めることが重要です。
金融機関が重視するポイントは、
・将来の想定賃料(エリアの家賃水準)
・想定空室率(周辺競合との比較)
・運営費(管理費・修繕費・税金)
・建て替え後の収支予測(キャッシュフロー)
・オーナーの自己資金や返済計画
これらを踏まえた収支シミュレーションを作成することで、融資審査もスムーズになります。
収益への影響を正確に見込むことは、「建て替えに踏み切るべきかどうか」を判断するための重要な基準となります。

■4.立退き・入居者対応のポイント
建て替えの成否を左右するのが「立退き対応」です。入居者の合意形成がスムーズかどうかで、建て替えのスケジュールは大きく変わります。
(1)法律に基づいた適切な対応
普通借家契約の入居者に退去をお願いする場合、オーナー側には法律に沿った慎重な対応が求められます。具体的には、次のようなポイントが重要になります。
・正当事由の有無
・補償内容の妥当性
・入居者の生活への配慮
などが求められます。
建て替えは正当事由として認められやすいものの、対応を誤るとトラブルにつながるため、法的な観点と、入居者の生活に寄り添う視点の両方を踏まえながら、慎重にプロセスを進めることが不可欠です。必要に応じて、早い段階で専門家(弁護士・不動産の専門家)に相談しながら進めることも有効です。
(2)説明責任と情報提供
建て替えの背景、目的、スケジュール、補償内容を整理し入居者の方に分かりやすく丁寧にお伝えすることが大切です。
こうした情報を隠蔽し、曖昧なままにしてしまうと入居者の不安が大きくなり、結果として合意形成がいっそう難しくなってしまいます。
(3)立退料・補償の検討
建て替えに伴う補償内容としては、一般的に以下のような項目が検討されます。
・立退料
・仮移転費用(敷金・礼金の差額、仲介手数料等)
・引越し費用(一時、本移転の往復)
・再入居の優先枠(新築後の優先的な入居権)
・仮住まい期間中の家賃差額補填(必要に応じて)
・その他、入居者個別事情に応じた補填(高齢者、障害者、事業者など)
などが考えられます。
立退料については法律で明確な規定はありませんが、地域性・建物の状態・入居者の事情などを踏まえて必要に応じて適切に設定します。
(4)入居者との信頼関係が成功の鍵
入居者にとって「丁寧に説明されている」「相談に乗ってもらえる」「不安を理解してくれる」と感じられることが、最終的に建て替え全体をスムーズに進行させる最大の要因となります。
誠実な対応は時間も手間もかかりますが、その積み重ねこそが合意形成の成否を左右します。
■5.仮移転先の確保・工事中の運営と近隣対応
仮移転先の手配と工事中の近隣対応が非常に重要なポイントになります。
特にテナントが入居している物件では、代替店舗の確保や事業継続の調整が難航するケースも多く、早い段階での準備が不可欠です。
(1)仮移転先の検討仮
移転先の選定は、入居者の生活やテナントの事業継続に直結するため、以下の点を丁寧に整理し、早期に対応することが求められます。
◎入居者向け
・現契約に近い条件の住まいを確保(間取り・家賃・エリアなど)
・引越し時期の調整(学校・仕事・家族事情を踏まえた柔軟な対応)
・再入居の可否・優先枠の説明(新築後に戻れるかどうかは明確な説明が必要)
◎テナント向け
・事業が継続できる代替店舗の検討(業種によって設備、面積、立地条件が異なる)
・移転準備・休業期間の発生を前提としたスケジュール調整
・移転費用・営業補償の範囲の説明
テナントは特に「仮移転が見つからない」「休業リスクが大きい」などの理由で調整が長引くため、早期の個別面談と代替案の提示が非常に重要です
(2)工事にともなうリスクの理解
建て替え工事中は周辺環境に影響を及ぼします。主なリスクは以下のとおりです。
・騒音(解体・杭工事・躯体工事など)
・振動(大型重機・杭打ち機による影響)
・工事車両の往来(大型車両の交通量増加)
・粉塵、安全確保(歩行者・隣地への影響)
こうした影響を最小限に抑えるためには、オーナー・管理会社・施工会社が一体となり、下記の点を事前に整理・共有することが重要です。
・工事スケジュールの共有と説明(解体・杭工事など騒音が特に大きい時期”を明示)
・騒音、振動対策の実施(防音パネル・散水・作業時間の配慮など)
・近隣安全対策(誘導員配置・動線確保・仮囲い等)
・事前説明会や個別訪問によるコミュニケーション
などを事前に共有することが重要です。
専門業者などが進めるものとはいえ、オーナーが工事中のリスクを理解し丁寧な対応を心がけることで、建て替えプロジェクト全体が円滑に進みます。
【最後に】
建て替えは、「古い建物を壊して新しくする」だけではありません。
実際には、契約関係の整理、入居者対応、工事中の収益対策など、見えないところで多くの準備と調整が必要になります。
特に、定期借地の切り替え・賃料減少への対応・立退き仮移転への対応(入居者テナント対応)の3つは、どれも時間と労力を要する重要なポイントです。
これらを後回しにすると、建て替え自体が進められなくなったり、後から多額の費用負担が発生したりするリスクが高まります。
だからこそ、建て替えを考える段階で、「契約」「お金」「入居者」「工事運営」の4つを整理しておくことが大切です。
鈴与三和建物では、土地活用・建物管理・外装修繕・不動産の売却といった幅広い分野に対応し、オーナー様の建て替えを、計画段階から完成・再運営までトータルでサポートしています。 建て替えを検討し始めた今こそ、まずは「何を整理すべきか」を一緒に見直すタイミングです。
私たちは、オーナー様の資産価値を守りながら、安心して次の一歩を踏み出せるようお手伝いします。


