法人所有の土地にRCマンションを建てる場合と個人所有の場合――税務上の違いと最適な選択とは?
2026.05.25 UP
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■はじめに
私たち鈴与三和建物株式会社は、創業以来90年にわたり、お客様の不動産に関するお悩みや
ご検討事項に向き合い続けてまいりました。
土地活用、建替え、大規模修繕、売却、相続対策など、不動産を取り巻く課題は時代とともに変化しています。
その中で培ってきた経験と実務ノウハウをもとに、
現在では不動産の現状把握や各種調査、コンサルティング業務まで幅広く対応しております。
本コラムでは、これまでの実務で得た知見をもとに、不動産活用に役立つ考え方や判断のポイントを
分かりやすく整理してお伝えしていきます。
不動産に関するお悩みやご検討事項がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
序章:「法人化が有利」という通説を疑う視点
不動産投資における法人活用は、近年の税制動向を背景に広く認知されております。
一方で、「法人化すれば節税になる」という一般論が先行し、
収益構造や相続設計を十分に検討しないまま法人設立に至るケースも少なくない。
特にRCマンション新築のように多額の資本投下を伴う場合、建築計画と税務設計の整合性が、
その後の収益性に直結します。
本稿では、個人と法人の課税構造を整理したうえで、RCマンション建築と組み合わせた際の税務上のメリットと留意点を、実務視点で明確にする。
第1章 個人・法人それぞれの所有形態の定義と実務上の違い
・個人所有
土地・建物を個人名義で保有し、家賃収入を不動産所得として申告する所有形態。既存土地に建築する場合は、
所有権移転を伴わずそのまま活用できるため、スキームがシンプルで初期コストを抑えやすい。
また、借入は個人名義となり、融資条件や審査は年収・資産背景・信用力といった個人属性に大きく依存する点が実務上の特徴となる。
・法人所有
資産管理会社などの法人名義で不動産を保有・運営する所有形態。
土地・建物の双方を法人で保有するケースに加え、
「土地は個人・建物は法人」とする分離スキームも実務上選択される。
家賃収入は法人の売上として計上され、
役員報酬や経費設計を通じて所得配分をコントロールできる点が特徴となる。

第2章 個人所有でRC建築した場合の税務構造
2-1 不動産所得と総合課税
個人の家賃収入は不動産所得として給与所得など他の所得と合算され、総合課税の対象となる。
所得税は累進課税制度を採用しており、所得の合計額が増えるほど適用される税率が段階的に高くなり、
税負担も大きくなる。
住民税(約10%)を加味すると、所得に対する実際の税負担の割合は、所得の金額に応じて大きく上昇する。
具体的には、900万円を超える部分では約43%(所得税33%+住民税10%)、
1,800万円を超える部分では約50%(所得税40%+住民税10%)、
4,000万円を超える部分では約55%(所得税45%+住民税10%)に達する。
給与所得や事業所得が既に高い層では、RCマンションからの不動産所得がそのまま最高税率帯に
積み上がるリスクを念頭に置く必要がある。
2-2 減価償却を活用した損益通
RC造建物の法定耐用年数は47年であり、定額法では取得価額の約2.1%を毎年償却できる。
建築直後は借入利息も大きいため、減価償却費と利息の合算により帳簿上の赤字を生じやすく、
給与所得など他の所得と相殺することで、全体として納税額を抑えられる可能性がある。
ただし、耐用年数の経過とともに償却費は逓減し、
キャッシュフローと課税所得の乖離が縮小する点には留意が必要だ。
長期保有を前提とする場合、ライフサイクル全体での税負担シミュレーションが不可欠である。
2-3 相続税における財産評価の圧縮効果
個人所有の賃貸用RCマンションは、相続税評価において以下の評価減が適用される(借家権割合は通常30%)
・土地:自用地評価額 × (1− 借地権割合 × 借家権割合)…(貸家建付地評価)
・建物:固定資産税評価額 × (1 − 借家権割合)…(貸家評価)
更地・空室の状態と比較して相続税評価額を圧縮できるため、相続対策としての効果は高い。
ただし、「相続税対策のために過度なアパートローンを抱える」問題が社会的にも注目されており、
収益性とのバランスを冷静に評価する姿勢が求められる。

第3章 法人所有でRC建築した場合の税務構造
3-1 法人税率とフラット課税の優位性
中小法人(資本金1億円以下)の法人税率は、年800万円以下の所得に対して約15%、
超過部分に約23.2%が適用される。法人住民税・事業税を含めた実効税率は概ね25〜35%程度であり、
個人の高税率帯(43〜55%)と比較して税率差は大きい。
不動産所得が年間900万円を超えてくると、個人の所得税は累進課税により税率が上昇し、
住民税を含めた負担は40%超の水準に達します。
一方で資本金1億円以下の中小法人ではおおむね25〜35%程度となることが一般的で、
税率面だけを比較すると法人化の方が有利になるケースが増えてきます。
ただし、役員報酬の設定や社会保険料、法人維持コストなどによって実際の手取りは変動するため、
税率だけで判断せず総合的な検討が重要です。
3-2 役員報酬による所得分散
法人化の大きなメリットの一つが、役員報酬を活用した所得分散です。配偶者や子どもを役員として登用し、
業務実態に見合った報酬を支払うことで、法人の利益を圧縮しながら、受取側では給与所得控除を活用できます。
これにより、課税所得を複数人に分散し、累進課税による税負担を抑えることが可能になります。
ただし、役員報酬は事業年度開始から3ヶ月以内に決定する「定期同額給与」である必要があり、
金額も業務内容に対して適正でなければ損金として認められません。
また、社会保険料の増加なども踏まえ、税務と手取りのバランスを総合的に検討することが重要です。
3-3 消費税の仕入税額控除
課税事業者がRCマンションを建築する場合、通常は建設費にかかる消費税について仕入税額控除の適用が可能です。しかし、2020年度の税制改正により、居住用賃貸建物については原則として消費税の仕入税額控除(還付)が
認められない仕組みに変更されています。
そのため、店舗併用や事業用区画の設定など、課税売上が発生する設計を行った場合に限り、
一部控除が可能となるケースがあります。 個人でも課税事業者であれば適用対象となりますが、
法人の方が事業スキームを設計しやすく、制度を適切に活用しやすい傾向があります。
3-4 株式を通じた承継設計の柔軟性
不動産を現物のまま保有している場合、相続や贈与の際に分割が難しく、
共有持分が発生することで管理や意思決定のリスクが高まります。
これに対し、法人化によって資産を株式として保有することで、
持分の細分化や段階的な贈与・売買による円滑な承継が可能になります。
さらに、株価の評価を見据えた中長期的な承継設計も行いやすくなる点は法人化の大きなメリットです。
ただし、株価の引き下げを目的とした過度な利益調整などは税務上のリスクを伴うため、
適正な範囲での計画的な設計が重要です。

第4章 ケース別「どちらが有利か」の判断軸
判断軸① 現在の所得税率(実効税率との差分)
法人化を検討する際の重要な判断軸の一つが、現在の税率水準です。
特に注目すべきは、所得が増えた際に適用される「実行税率(所得税+住民税)」と、法人の実効税率との差です。
この差が大きいほど、法人化による節税メリットは大きくなります。
給与収入や事業所得が高く、すでに税率33〜45%帯にある場合は法人化の優先度が高まります。
一方で、退職後など所得水準が低い場合は、個人での損益通算を活用した方がシンプルかつ効率的な
ケースもあるため、状況に応じた判断が重要です。
判断軸② RC建築の規模と収益規模
法人化には、設立費用(合同会社で約20〜30万円、株式会社で約25〜35万円)に加え、
税理士報酬や決算費用(年間20〜60万円程度)、さらに法人住民税の均等割(年間最低7万円)などの固定コストが発生します。
そのため、これらのコストを十分にカバーできる収益規模があるかどうかが、
法人化を判断する重要なポイントとなります。
一般的には年間家賃収入1,000万円以上が一つの目安とされますが、物件の収益性や借入状況、
役員報酬の設計によって損益は大きく変動します。
既存法人への統合など、コストを抑える方法も含めて総合的に検討することが重要です。
判断軸③ 相続・事業承継の意向と時間軸
法人化を検討する際は、単なる節税効果だけでなく、
10年〜30年単位での相続・事業承継の視点が重要な判断軸となります。
特に、二次相続・三次相続まで見据えた資産移転を行う場合、
法人化による株式承継スキームは有効な選択肢となります。
株式として保有することで、持分の分割や段階的な贈与が可能となり、柔軟な承継設計が実現できます。
一方で、株式は流動性が低く評価額の管理も必要となるため、単独所有で完結する資産活用の場合は、
法人化によるコストや手間に見合わないケースもあります。長期的な視点と資産規模に応じた判断が重要です。

第5章 「土地は個人・建物は法人」の分離スキームと税務リスク
スキームの概要と有効性
土地を個人で保有したまま、建物のみを法人が所有するスキームは、一定の条件下で有効な選択肢となります。
土地を法人へ移転しないため、不動産取得税や登録免許税などの初期コストを抑えられる点が大きなメリットです。
また、法人が個人地主に地代を支払うことで所得分散が可能となり、
税負担の最適化につながるケースもあります。
土地は借地権課税を回避するため、無償返還の届出書を提出することで借地権20%減が可能。
ただし、地代は税務上妥当と認められる金額で設定する必要があり、借地権の取り扱いや契約内容によって
税務上の扱いが大きく変わる点には注意が必要です。
実務では、スキームの有効性と税務リスクを踏まえた設計が重要となります。
同族会社における株式評価への影響
このスキームは、被相続人が保有する同族会社の株式評価にも大きな影響を与えます。
非上場株式の評価は、会社の収益力を反映する「類似業種比準価額」と、純資産を基にした「純資産価額」によって算定されるため、建物の収益性が高まるほど株価が上昇し、結果として相続税負担が増加する可能性があります。
そのため、役員報酬の設定や内部留保の管理を通じて、
株価を適正な水準にコントロールしていくことが重要となります。
ただし、評価方式は会社規模によって異なり、過度な利益調整は税務上のリスクを伴うため、
長期的な視点でのバランス設計が求められます。

まとめ:判断の3軸と設計の鉄則
① 法人化の有利・不利は個別条件による
法人化の有利・不利は一律に判断できるものではなく、
「現在の限界税率(所得税+住民税)」「RCマンションの収益規模」「相続・事業承継の時間軸」という3つの軸を
もとに総合的に評価する必要があります。
これらを定量的に整理せずに法人化の優劣を断言することはできません。
具体的には、税率差の試算に加え、法人住民税の均等割や税理士報酬などの維持コスト、
さらに将来の承継シミュレーションまで含めて検討することが重要です。
最終的には、税後の手取りキャッシュフローや社会保険料も踏まえ、税理士とともに意思決定を行うのが
実務上の基本となります。
② 分離スキームは強力だが設計精度が求められる
「土地は個人、建物は法人」とする分離スキームは、節税効果が期待できる有効な手法ですが、
その一方で設計の精度が結果を大きく左右します。
特に、地代の設定水準や使用貸借か賃貸借かの選択、さらに同族会社の株式評価への影響といった論点を適切に整理する必要があります。
また、地代が不適切な場合には借地権の認定リスクが生じる可能性もあり、税務上の取り扱いが大きく変わる点には注意が必要です。 スキームを検討する際は、相続税・法人税・所得税を横断したシミュレーションに加え、
税後キャッシュフローまで含めた総合的な判断が不可欠となります。
③ 建築計画と税務設計は同時並行が鉄則
建築計画と税務設計は、必ず同時並行で進めることが重要です。
建築後に法人化を行う場合、建物を個人から法人へ移転する際に、不動産取得税や登録免許税、
譲渡所得税などのコストが新たに発生し、スキーム全体の経済合理性が大きく低下する可能性があります。
さらに、移転時には消費税の課税関係や評価額の設定によって税負担が大きく変動するため、タイミングの見極めも重要なポイントとなります。 こうしたリスクを回避するためにも、建築の意思決定段階から税務設計を
並行して検討し、最適なスキームを構築することが求められます。

専門家との連携について
RC建築を前提とした法人化の判断は、税理士だけで完結するものではありません。
建築コストや工期、賃料設定、稼働率といった実務データが、税務シミュレーションの前提となるためです。
そのため、建築の実務を理解したパートナーと税務専門家が連携し、
資金計画や収益性まで含めて一体的に検討することが重要となります。
さらに、金融機関や設計者も含めた体制で、初期段階から前提条件を揃えることで、
精度の高い意思決定が可能になります。
RCマンションの法人化は、単なる節税ではなく「事業設計」であるという視点で、
専門家チームによる総合的なコンサルティングを受けることが成功の鍵となります。

参考情報
国税庁「所得税の税率」
国税庁「法人税の税率」
国税庁「消費税の仕入税額控除(課税事業者)」
国税庁「財産評価基本通達(貸家建付地・貸家)」
国税庁「同族会社の株式の評価」


