CRE戦略から考える老朽物件 ― 放置か、再生か?
2025.07.25 UP
Contents
1. 社有不動産の“老朽化”という見えないリスク
企業が保有する不動産(CRE:Corporate Real Estate)は、単なる「資産」ではなく、企業戦略と密接に関わる重要な経営資源です。
しかしその中に、活用ができていない遊休地や稼働していない建物、築年数が進んだ老朽建物が含まれている場合、それは経営リスクとなり得ます。
建物を所有するうえで、その老朽化は避けられない問題です。構造や用途、劣化具合などは建物によって異なるため一概には言えませんが、建物の老朽化は「資産価値の下落」「維持コストの増大」「企業イメージの毀損」といった問題を内包しており、放置することでその影響は年々拡大していきます。
CRE戦略の視点では、これらの老朽物件を単に“保有している”こと自体が、企業価値の足かせとなる場合もあるのです。
2. 老朽物件を放置することによるリスク

老朽化が進んだ建物を放置することは、多くのリスクを伴います。代表的なものは以下の通りです。
- 構造的な危険性:耐震性能が現行基準を満たしていないなど、構造的な危険性のある建物は、地震などの災害が発生した際に人的、物的損害につながる可能性があります。近年より重要視されているBCP(自然災害などが発生した際に、重要な業務を継続したり、早期復旧を図るための計画)の観点でも、非常に大きなリスクといえます。
- 資産価値の下落:建物の劣化は物件としての評価額の下落にもつながります。様々な事情で売却により不動産の現金化を検討する際、その評価額が下がるだけでなく、買い手がつきづらくスムーズな売却ができなくなってしまうことも考えられます。
- 生産性への悪影響:オフィスなどの老朽化は従業員のモチベーションや業務効率の低下を招き、生産性低下に繋がる可能性があります。
- 地域社会やブランドへの悪影響:景観の悪化や防犯上の懸念から、地域住民との関係が悪化してしまったり、企業のイメージ低下に繋がることもあります。
- 火災や不法侵入のリスク:利用されていない建物を適切に管理することは難しく、火災や不法侵入などのトラブルにつながる場合があります。
3. CRE戦略における老朽物件の位置づけ
CRE戦略とは、企業が所有する不動産を経営資源として捉え、経営戦略に沿って活用するための視点です。この戦略上、老朽した建物は現状のまま保有を続けるべきか、手を入れるべきか検討することが重要です。その際には以下のような観点で検討を行うことをお勧めします。
- 事業とのシナジー(本業への貢献度)
- 保守・修繕費の見通しと収益性のバランス
- 地域市場における資産価値の将来性
- 社会的評価(ESG・コンプライアンス等)
「使っていないけれど持っている」という状態は、戦略的保有とは言えません。むしろ、“放置=企業価値の低下”と捉えるべき局面に入っているのです。
4. 再生に向けた選択肢と検討軸
本業で利用している物件が老朽した場合、今後も使うならば建替えや修繕を行う必要があります。
一方で、利用度が低下した物件や、遊休地等もともと利用度の低い物件の価値は、どう見直すべきでしょうか。
これらの物件の再生の方向性として、以下のような選択肢が考えられます。
- 建替え:最新の耐震基準に適合し、収益力のあるビルやマンションに再開発。
- 大規模リノベーション:用途転換(オフィス→店舗、社宅→シェアハウスなど)により、再び収益物件として活用する選択。
- 売却:収益性や活用の見通しが立たない場合、早期に現金化し、他の資産へ再投資する。
- 外部連携による共同活用:定期借地や民間連携(PPP)を活用し、他社や自治体との連携で土地活用を進める。
これらの選択肢を検討する際には以下のような評価軸で検討をすることをお勧めします。
- 再投資に対する回収年数(ROI)
- 補助金や優遇税制の活用可能性
- 建築基準法や条例への適合性
- 企業ブランディングや社会的責任(CSR)との整合性
6. 社内合意形成に向けて必要な準備
老朽物件の再生には、多くの場合、経営層や関係部署との連携が必要です。そのため、社内での合意形成を進める際は、次のような準備が求められます。
- 不動産の現状評価(建物診断、土地の市場価値調査)
- 複数パターンの収支シミュレーション
- 投資効果とリスクの比較資料
- 事業化に向けた工程表(スケジュール感)
- 稟議書・提案書の骨子と説得材料
経営陣が関心を持つのは「投資の妥当性」と「企業全体への波及効果」です。専門的なデータに加え、現実的な実行可能性を示すことで、理解と判断を得やすくなります。
7. まとめ:CRE戦略を「攻め」に転じる好機に

老朽建物の問題は、表面的には「維持コストの負担増」ですが、本質的には「企業の資産が動いていない=機会損失」であるということです。
放置を続けるのか、それとも新たな活用で価値を生み出すのか。
CRE戦略の視点を持ち、老朽物件に正面から向き合うことは、企業の経営基盤を強化する第一歩です。
まずは現状を“見える化”し、自社にとって最適な道を探ることから始めてみてはいかがでしょうか。
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